海の底の景色をうつすと言われる漆器

若狭塗(わかさぬり)とは、福井県小浜市で生まれた伝統工芸の漆器です。
その始まりは江戸時代初期、小浜藩の御用職人が、若狭湾の海の底に広がる美しい景色を漆で表現したことに由来するといわれています。
以来400年にわたり、この地では海のように深く、やわらかな光をたたえた器が受け継がれてきました。


「研ぎ出し」が生む、唯一無二の模様

若狭塗の最大の特徴は、「研ぎ出し技法」と呼ばれる独自の工程です。
卵殻や貝殻、松葉などを漆の中に幾重にも重ね、その上から何度も漆を塗り重て、
最後に表面を研ぎ出して模様を浮かび上がらせます。

何層もの漆が透けて見えるその文様は、まるで海の底や夜空を覗き込むよう。
同じ素材を使っても、職人の手の加減や研ぎ方で全く異なる表情を見せます。
この「二つとない模様」こそが、若狭塗最大の魅力です。


美しさと実用性を併せ持つ器

若狭塗は見た目の美しさだけでなく、丈夫さと使いやすさにも優れています。
漆を重ねることで水や熱に強く、軽くて手になじみやすいのが特長です。
お箸をはじめとした、日常使いの器としても親しまれています。
中性洗剤でやさしく洗い、やわらかい布で拭くだけで、長く美しさを保てます。


時代とともに変わる、若狭塗のかたち

かつては硯箱や重箱など、格式ある調度品として広く使われてきましたが、
今の時代に合わせて、名刺入れ・ボールペン・ピンバッジなど、
暮らしの中で楽しめる新しいアイテムも生まれています。

加福漆器店では、こうした「現代の若狭塗」を通して、
伝統を新しい雑貨へと進化させ、次の世代へとつなげる試みを続けています。


一つひとつが、世界にひとつの景色

若狭塗の模様は、すべて職人の手によって生まれる一点もの。
同じものは二つとありません。
その偶然の美しさが、自然の中にある“調和”や“いのちの循環”を思わせます。

海とともに生きてきた小浜の土地から生まれた、
自然と人の手が織りなす芸術——それが若狭塗です。

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